さて、日ごろから私は「日本語は結果に視点を置く傾向がある」と考えています。みなさんはこういう風に考えたことがありますか?「結果に視点を置く」という意味がつかみにくいかもしれませんので、例文をあげますね。
(かぎを探していて)かぎがあった!かぎが見つかった!これは普通の言い方です。英語なら "I found it!" と言うでしょうか。
英語が自分の行動を表現しているのに対して、日本語は結果を表現しています。
他には「~てある」の文も明らかに視点は結果に置かれています。
A:ホテル、予約した? B:もう、してあるよ。
C:プレゼント、もう買った? D:買ってあるよ。「予約した、買った」という行動の後の結果(状態)を表しています。
You scared me!
(私は)びっくりした!明らかに、英語は行動、日本語は結果を表しています。「 あなたが私を脅かしたから、私はびっくりした」という流れです。日本語で "You scared me!" を「あなたが私を脅かした!」とは絶対に言いません。
日本語らしい表現「お世話になります/なっています/なりました」もこの例に入ると思います。これは訳すのが難しい文ですが。
お世話になります。(Thank you for working with me. I appreciate your assitance.)「世話をする」="look after" で、「世話になる」はその受け身形 (passive form) です。つまり、"You look after me." は他の人の行動で、「世話になる」は私が受けた結果です。でも、「あなたは私をお世話しました。ありがとう。」とは絶対に言いません。
英語と日本語の違いが見えたでしょうか?日本語は結果に視点を置いていると思いませんか?この違いをうまく言い当てているのが、片岡義男(かたおか よしお)さんです。彼の本『日本語と英語 その違いを楽しむ』(*1)の中で彼は「英語の動詞は働きかける」と書いています。
働きかける:あるものが他のものに積極的に動作・作用をしかける(*2)私はこの「働きかける」という説明が英語らしさを端的に表していると思います。片岡さんが本の中で出した例文を書きます。
What makes you think you are right about that? (働きかけの文)
上記の英文の日本語訳:どうして自分が正しいと思うのですか? (結果の文)"make" は「何があなたをそうさせたの?」と働きかけています。一方、日本語は「自分が正しいと思っている結果、または状態」に言及しています。「何があなたをそう思わせたんですか?」という文もあり得ますが、特別な感じがします。
最後の例は「よかった」。友だちからいいニュースを聞いたら、「よかったね」と返すのが普通です。
友だち:試験に合格したよ!
あなた:よかったね!英語なら "I'm glad to hear that." などと言いそうですね。「その結果を聞いて、私はうれしい。」 ということで、結果の文ですが、日本語では「私はうれしいよ!」とは言わずに、「試験に合格した」という結果が「よかった」とすごく簡潔な反応になっていると思います。ただ、みなさんも知っているように「よかったね」の言い方を変えれば、話者の感情は何通りにも表現できるので、「よかった」の中には話者の感情もちゃんと含まれています。
「視点がどこに置いてあるか?」ということを考えながら、日本語の文を分析してみると、新たな発見があるかもしれませんよ。
*1『日本語と英語 その違いを楽しむ』、片岡義男、NHK出版、2012年
*2『デジタル大辞泉』、小学館
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